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#004 ink x master-piece COLLABORATION SERIES : 2020.09.23

マスターピースのモノ語り

マスターピースのバッグには、ひとつひとつに様々なストーリーが宿ります。ただのバッグではない、物語が詰まったプロダクトがどのように生まれたのか。

スペックではないストーリーを、お届けする企画「THE STORieS」。


文 : 岩井祐二
1977年京都府生まれ。雑誌『カジカジ』編集長を経て、2017年に独立。大阪・中津に編集型ショップ「IMA:ZINE」を立ち上げる。現在も雑誌制作や各種クリエイティブに携わる編集者としても活動。

 

塩とバニラ。アルとロバート。
ギャップ萌えな濃密コラボ。

好きな映画は数あれど、マイケル・マンの『HEAT』は外せません。ヴァル・キルマーにアシュレイ・ジャッド、ジョン・ヴォイトにトム・サイズモア、デニス・ヘイスバート、ダニー・トレホ、ダイアン・ヴェノーラ…。脇を固めるキャストも完璧で、マイケル・マンの作り出す重厚で乾いた世界観に何度も鳥肌を立てました。そして、この映画の主役は、ニールとヴィンセント。そう、ロバート・デ・ニーロとアル・パチーノという二大巨頭の共演です。二人が対峙するたびに僕はまるでその映画の中にいるかのように入り込み、一挙手一投足をジーッと見つめます。そして、好きな映画は数あれど、フランシス・フォード・コッポラの『The Godfather』も外せません(別にギャング映画が特別好きなわけではないのですが)。アル・パチーノはマイケル・コルレオーネとしてシリーズ第1作から出演していますが、その父親役のマーロン・ブランド演じるドン・コルレオーネの若かりし日を描いた第2作で好演し、アカデミー賞で助演男優賞を獲得したのがロバート・デ・ニーロなんです。二人はコルレオーネ親子をそれぞれ演じながら、劇中では一切絡むことなし。ですが、この二人の共演があの映画を成功させたのは言うまでもありません。そんな二人がいつか良い作品の中で共演してくれないか、と望んでいたところに公開されたのが『HEAT』だったわけです。この共演には本当にしびれました。ロバート・デ・ニーロが犯罪を犯す側、それを阻止する警官役がアル・パチーノなのですが、二人が初めて対峙するカフェのシーンなんて、もう…。いつ見てもヨダレが出そうなほどにしびれるシーンなんです(あの瞬間のデ・ニーロが僕の中では一番かっこいい)。ロバートがいることでアルが輝き、パチーノがいることでデ・ニーロが凄みを増す。共演とはかくあるべき、の見本です(二匹目のドジョウを狙った、NETFLIXの作品は、どうもピンとこなかったですが…)。

他にも夢のある共演は数々ありました。映画はその最たる例ですが、スポーツでもそれは起こり得ます。例えば、今年は残念ながら見られなかったのですが、高校野球の夏の選手権大会が終わった後、毎年9月-10月には、甲子園で活躍したスターたちがU-18日本代表として集います。大阪桐蔭と横浜の選手が、智辯和歌山と敦賀気比の選手が…、それぞれの強豪校の選手が一緒のチームで闘うなんて、もはやドキドキしかしません(毎回野球の話を入れ込んですみません)。音楽でも夢のある共演は頻発しますが、この数年のうち、僕が最も心惹かれたコラボレーションは、ポール・マッカートニーとカニエ・ウエストが共演した『Only One』。カニエが自分の娘に向けて歌った曲ですが、ポールがキーボードを演奏し、カニエが即興で歌ったそれは本当に素敵で、何百回と聴き入りました。ヒップホップは確かにその哲学上、垣根を超えてあらゆるものを巻き込みながら進化してきた文化なので、過去にも様々なコラボがありました。最近では、Lil Nas Xとビリー・レイ・サイラスの『Old Town Road』が大ヒットしましたし。カントリーとコラボとは、その時点で半分勝ってましたもんね。

コラボレーションや共作、共演、リレーションシップ、フィーチャリング。言い方や手法はさまざまなれど、受け取る側の僕らからすれば、そこに求めるのは組み合わせの意外性と結果に対する期待感。それしかありません。まず、その両者の間にあるギャップが重要であり、性格が違えば違うほど、どんな結果が生まれるのか、期待感が高まります。初めて、“塩バニラ”の文字を見たときのザワつき。“甘いものに辛いもの!?”、そんな違和感と意外性に誰もが飛びつき、その結果を味わってみたいと思ったことでしょう。

そう言う意味では、今回、マスターピースがコラボレーションした<ink>との取り組みは、僕からすれば、意外も意外、HIP HOP的な共作だと感じています。そこにはギャップしかない組み合わせで、中華とフレンチ、551とクラブハリエ、かまいたちとミルクボーイ(あり得るな)、相席食堂とクローズアップ現代、のように、名前だけを見れば、まるで出来上がりが想像できないものでした。

<ink>は今年、ブランド創設15周年を迎えたリメイク界の横綱。まだ“リメイク”とか“再構築”とか、いまみたいに“サスティナブル”とかがもてはやされる随分前から、それを成してきた存在で、“リメイク”をちゃんとした洋服として成立させた功績者。僕個人としては、日本のカジュアルシーンに一石を投じた存在だと認識していますし、日本のどのブランドやアーティストよりも丁寧なリメイクプロダクトを発信し続けているブランドだととらえています。そのクオリティは特別で、新品にはない風合いを元々から手にしている洋服は、他のどのブランドにもない圧倒的な存在感を纏っています。ブランドのタクトを振るうのは岡田真幸さん。デザイナーというべきかリビルダーというべきかアーティストというべきか、そのどれもが当てはまるほどの技術と経験を持った人物で、数々の名作を世に送り出してきました。そんな岡田さんにマスターピースの印象を尋ねると「機能美に溢れたバッグを作り出すブランド」と簡潔ながらも嬉しいお言葉を。「自分のやっていることとは真逆ですね」とも。「やっぱりバッグブランドが作るバッグって、洋服のブランドのそれとは根本的に違うというか。しっかりしているし、ちゃんとしている。僕は機能性というところからは離れた物を作っているから、そこは素直にすごいな、と思いますね」。

一方の我らがマスターピースは、岡田さんの言う通り、機能性を全面に押し出したプロダクトでおなじみのバッグブランド。<ink>との共通点を考えれば、マスターピースはカジュアルのシーンにおいて、バッグをファッションアイテムへと押し上げた功績者でもあるってこと。ともに長い歴史の中で、それぞれのプロダクトに宿る哲学を世に広め、価値観の創出に寄与してきた存在ということです。

とはいえ、古材をベースに洋服を作る<ink>と、生地から開発し機能性を謳うマスターピースがどのようにコラボレーションするのか。僕には想像ができないものではありました。

「昨年、ふとしたきっかけからコラボレーションできないか、みたいな話が湧いて出て。お互いにまだ想像がしっかりできていない中でマスターピースの展示会に岡田さんが来てくれて。その中でポケットが特徴的なバッグがあったのですが、それを手にした岡田さんが“ポケット”をキーワードにしたクリエイションを考えてくれたのがスタートです。僕たちはバッグブランドとして、ただ単に洋服を作りたいという考えはなかった中で、ポケットはある意味でバッグのようなものだととらえることができるので、その方向性で行きましょうとなりました」と語るマスターピースのディレクター・古家くん。

一方の岡田さんも、「僕は古材を使っていて、マスターピースはテクニカルでディテールの使い方も面白い。真逆のアプローチがそこにあって、そのギャップが面白いのかなと」。

両者の考えることに違いはあれども、互いにどんなものが生まれるかを楽しみながら作業をしていたことがうかがえる。そして、古家くんにはもうひとつ想いがあったようで。「世界的なキーワードとして“サスティナブル”って言葉が叫ばれています。僕たちもあらゆる場面でそれを意識して取り組んでいますが、<ink>さんは、そんなことよりもずっと前、15年も前からリメイクという手法で洋服を作られている。当初から“サスティナブル”ってことを意識されてのことではないにしても、古いものを生かすっていう手法は変わらずあって。そこがコラボレーションのきっかけというか、決め手になった部分もありました」。確かに、ただただ“格好いい古いもの”を“格好いい洋服”に作り変えることを、シンプルに真摯に続けてきた<ink>の岡田さんの頭には、当初から環境面を配慮した“再利用”という頭はなかったかもしれないが、それでも結果として、そうなっているのだから、時代が<ink>に追いついた? ってことなのかもしれない。

こうしてスタートしたコラボレーションは、岡田さんが洋服を作り、そのポケット部分をマスターピースが作るという流れで進行し、見事なカプセルコレクションが出来上がった。コーチジャケットにベスト、オーバーオールの全3型がリリースされる。

「例えば、このコーチジャケットの袖部分は、マスターピースが開発しバッグに使用しているボンディングの生地です。ポケット部分は開くようになっていたり、内ポケットにも取り外し可能なポケットが付属します。古材と機能的な生地がどのような反応を起こすのか、楽しみにしていましたが、自分としても納得の仕上がりです」と岡田さん。その仕上がりはまさに秀逸。一から引き直したというパターンも美しく、まずは単純に洋服として格好いい。身頃に使われた古材と袖のボンディングという異素材のギャップも目を引くし、なんといっても開閉型のポケットにはトキめいた。“ポケットをバッグに”という古家くんの発想が、見事に体現されていて、これ一着で手ぶらで出かけることができそうな、バッグと洋服の融合が面白いように体現されている。そして、コラボレーションとして大切な、出来上がりのトータルバランス=パッケージ感も実にお見事。「ベストは、モッズコートのベスト、みたいなイメージで僕が一から考えた型ですね。オーバーオールは昔のエンジニアっぽいものをベースにしてライダースを組み合わせたデザインです」と岡田さんが語る通り、既視感のあるものではなく、コラボレーションだからこそ生まれた新しいスタイルへと着地している。そして、どの型にもしっかりと“ポケットをバッグに”というコンセプトも踏襲。取り外せたり、付け加えたり、手に持つバッグではなく、服とともに着るバッグが表現されている。

ink x master-piece コーチジャケット



 

ink x master-piece ベスト



まるで『HEAT』のように、マスターピースが<ink>の洋服の価値を高め、<ink>がマスターピースの機能性を引き出す。理想的にして、魅力的なコラボレーションとなった今回の取り組み。一回で終わるのはもったいない、と思っていたところ、この先もなにやら企んでいるようで、今後しばらくは続きそうな予感。まずは今回の3型を実際にその手にとって見てみることがオススメ。<ink>が好きな人も、マスターピースが好きな人も、それぞれの新しい表情に出会えますよ。どちらが主演でも助演でもない、W主演。個人的には“塩バニラ”以来の違和感とギャップと期待感を持って、このコラボレーションを楽しみたいと思います。

Text : Yuji Iwai


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