THE STORieS

#006 BASE OSAKA

マスターピースのモノ語り

マスターピースのバッグには、ひとつひとつに様々なストーリーが宿ります。ただのバッグではない、物語が詰まったプロダクトがどのように生まれたのか。

スペックではないストーリーを、お届けする企画「THE STORieS」。


文 : 岩井祐二
1977年京都府生まれ。雑誌『カジカジ』編集長を経て、2017年に独立。大阪・中津に編集型ショップ「IMA:ZINE」を立ち上げる。現在も雑誌制作や各種クリエイティブに携わる編集者としても活動。

 

マスターピースのマスターピース。
職人たちが作る鉄壁の地盤。

昔大好きだったスポーツライターの金子達仁さんがこんなニュアンスのことを言っていました。日本が野球が強いのは野球場が多いから。柔道が強いのは世界のどこよりも道場があるから。日本サッカーが強くなるにはより多くのサッカー場、または道端でもサッカーができる環境が揃わなければ、強くなることはない–。その考えにとても納得した覚えがあって、要はそれに触れる機会と、それを育てる地盤があれば、物事の成長速度は早まり、そのクオリティも高くなる、と。

少年野球、リトルリーグ、ボーイズリーグにシニアリーグ、高校野球に大学野球、独立リーグに社会人野球、そしてプロ野球。日本の野球が世界に通じるのは、この地盤があるからこそ。サッカー場に比べて設備が必要にも関わらず、野球場はあらゆる都市にあって、河川敷にも野球ができる環境が昔からありました。世界中で、アメリカの次に野球ができる環境は、間違いなく日本が優れているものでしょう。

翻ってサッカーは、1996年に開幕したJリーグが掲げた“百年構想”が全ての始まり。ユースやアカデミーが強化され、しっかりとした環境で練習をできる機会が増えた。それでもまだまだ数が足りない。地盤が弱い。これから百年構想をどこまで実現できるかで、日本のサッカーが世界に通じるようになるかどうかが決まると思うのです。いまはまだまだ世界の第三グループあたり。第四グループかもしれません。それは、まだそこまでの環境になっていないということ。そして環境は簡単には整わない。大金と人材を投じて、初めて加速度的に成長することができる。だから、サッカーはまだまだ弱いんだと思うのです。久保くんや中井くん、三苫くん、冨安くんといった有望な若手が出始めているのは、きっとその地盤が整ってきたことの証。ただその才能を開花させられるメンタリティを養うほどの地盤がここ日本にはまだないということなのだ、と。

映画や音楽もそうですよね。隣国の韓国は、エンターテインメントに巨大な予算を費やしています。英語の習得を国策のように強化し、映画や音楽に対して、国自体がバックアップする。エンターテインメントを外交の一種とし、国際的な評価を得ようとする国策です。彼らはそれを成し得るために、才能を掘り出し育てる地盤を作り、世界へ羽ばたくための環境を整えたのです。それらすべての努力が数十年で身を結び、ポン・ジュノやBTSなど、世界的に通用するエンターテイナーが生まれたのです。芸術を軽んじる日本では、突然変異種のような才能が生まれない限り、この先何年経っても彼らのような世界的エンターテイナーを生み出すことは不可能だと思ってしまいます。

物事のすべては環境から生まれ、環境によって育ちもすれば、環境によって失墜もする。ゆえに、当たり前のことですが、地盤がしっかりとしていなければ、その上にクリエイションは立たなくて、よきものはできず、よきことは起こり得ない。何事も周りに生かされ、周りを生かす。環境が整っているからこその自由。地盤が揺るぎないからこそのクリエイション。それこそが万事のセオリーだと思うのです(例外はもちろんありますが)。

大阪市平野区。あらゆる種類の工場が立ち並び、ものづくりの町として栄えた大阪を象徴するようなこの場所に、マスターピースの自社工場『BASE OSAKA』があります。効率と生産性と利益を求めて、物作りだけでなくあらゆることがアウトソーシングされ、グローバル化していく現代において、自社で工場を持ち、しかもそれを地元である大阪に構えていることは特筆に値すること。お金もかかれば、自社で工場を持つことでのリスクも様々ある中で、それでもマスターピースが『BASE OSAKA』にこだわる理由はなんなのか。

「様々な想いはありますが、最も強いのはプロダクトのクオリティ追求のため、という想いです。採算を考えれば、自社工場を持つことは得策ではないのかもしれません。実際にここ日本では、自社で工場を持っているバッグメーカーはほとんどありません。外部に制作を発注することが悪いというわけではなく、自社の人間と物作りをすることでしか生まれないものがあると思っています。例えば“距離感”。僕や企画の人間が考えたことを、同じオフィスにいる感覚でそのイメージを伝えることができ、またそれを形にしてみることができる。ズレがあっても、微調整もしやすい。何度も何度も話し合って、一体となることで、自分たちの考えたことがひとつのプロダクトになっていく。その過程がなければ成り立たないんです。自社で工場を持って、サンプルを作ってくれる人、縫ってくれる人、パーツを付けてくれる人、点検してくれる人など、様々な人たちと意思の共有ができる。これはお金には変えられない貴重なもので、クオリティ向上の大きな力になっていると感じています」


そう語るブランドディレクターの古家くんからすれば、自社工場の存在は貴重すぎるものだと、客観的に見ていて思います。ディレクションする立場からすると、生産性が安定していて、全ての人たちとのコミュニケーションが取りやすい環境は、何にも代えがたい宝物です。その地盤があるからこそ、自らのクリエイションに遠慮がいらなくなる。思い切って何かを試したり、新しい扉を開けるチャレンジを心おきなくできる。よきものが生まれる理想的な環境がそこにあるのだと思います。


「工場では50人を超える方々が働いています。バッグを作る工程は複雑で、物によっても違えば素材によっても変わってくる。それら全ての工程にプロフェッショナルな方々がいて、僕たちマスターピースの物作りを支えてくれています。そして、ここでは若い人たちも多く働いています。僕と同じような年齢で同じようなカルチャーを見てきた人もいれば、僕よりも若く、違う時代感に影響を受けてきた人も。そんな彼らとは、“こんなことがしたいんだけど”と伝えるだけで、“あぁ、あの感じね!”と、阿吽の呼吸で物事が進み出す。そしてそこに必要な技術を、熟練した先輩工員の方々から教えてもらい、吸収しながら作っていく。やがてその技術は継承されながら時代の空気を含んで発展し、次の世代へとつながっていく。その中で、その時代その瞬間にベストだと思えるプロダクトを追求していく。まさに僕にとっては理想的な環境が整っていると思うんです。」

古家くんの言葉は力強く、そこには様々な想いが込められていることが伝わってくる。そしてその想いが彼を突き動かして、また新しいマスターピースが生まれていくのだと、この『BASE OSAKA』を取材して思った。と同時に、古家くんは幸せ者だなぁ、と僕は思ったのです。

では、その古家くんに、彼のクリエイションのベースにもなっているこの場所で働く人たちを紹介してもらいます。彼らがマスターピースにとってのマスターピース。物作りを支える根幹なのです。

佐藤 / サンプル師

『BASE OSAKA』のレジェンド。サンプルラボの最年長ですが、常に向上心と好奇心を持って、私たち若手の意見を隈無く吸い上げ仕上げてくれるサンプルは、まさにマスターピースクオリティーの根源です。この日はかけていませんが、ハズキルーペがトレードマークです。

桂 / サンプルラボマネージャー

『BASE OSAKA』の若頭、桂さん。年齢も近く、ファッションを愛している彼は真っ先にブランド的観点を共有できる職人の一人です。面白そう、の一言で共感できる彼に助けられた事は数えきれません。

橘 / 縫製師

ルーキーである彼は、営業職からモノづくりの世界に飛び込んできました。『BASE OSAKA』のイメージムービーにも出演していて、その中で縫製した図面の出来は秀逸で、今も2Fに飾っています。まさに次世代を担うエース候補です。

辻川 / 縫製師

ストアマネージャーを経て、東京でブランドのPRを行なっていた彼。今年からは、本人の希望により職人の道を歩んでいます。このようにフィールドを変えてチャレンジ出来るのも、自社ファクトリーを抱える自分たちの強みだと思っています。

坂東 / カスタマーサポート

いつまでも、修理してでもマスターピースのバッグを使ってもらいたい。そんなブランドの思いを常に体現してくれているのが坂東さん。移転拡大と共に『BASE OSAKA』へ。笑顔満点、みんなのお姉ちゃんのような存在です。

藤原 / 班長

大事な縫製ラインの班長です。私が入社して約1ヶ月間、旧『BASE OSAKA』で研修していた際ずっと教えていただいた大先輩です。夜中まで付き合っていただき、一つのリュックを縫い上げたのが昨日のことのように思い出されます。

高須 / 縫製師

ショートカットがポイントの高須さんは、仕事が本当に丁寧です。ご家族でブランドのイベントにも遊びに来てくれるフレンドリーさが、いつもほっこりさせてくれます。

西田 / ライン長

どんな時でも、話を聞いてくれて、どんな時でも、協力してくれて。クラフトマンツアーとゆう出張型エキシビションもこの方なしには成り立ちませんでした。現在は後世の育成に力を入れていただいています

芦田 / 縫製

ブランドと同い年の彼女。独自の間合いで放つ鋭い一言が癖になります。また、月一で変わる彼女のヘアカラーを見るのも、『BASE OSAKA』に行く楽しみのひとつです。

佐川 / 縫製

こちらもブランドと同い年の佐川。芦田と同じく全く大学卒業と同時に職人の世界に進みました。近頃通勤の時にする事がなく困っているそうです。

恵 / 生産管理長

テキパキ中のテキパキである恵さん。検品は鞄作りの最終工程であり、ここを通過して初めてマスターピースになります。その最終関門で、OKを出すのがこの男、恵氏なのです。

山根&松尾 / 裁断師

師弟関係の2人。山根さんのいぶし銀的立ち位置を、今後は松尾が引き継いでいくことになるでしょう。ちなみに、山根さんの時たま見せる真顔は、本当にこわいです。一瞬怒られるんじゃないかって焦ります。

山田 / 出荷

山田さんは勤続年数30年以上の大ベテランで、私にとってもグランドマザー的存在です。お祝い事の時に焼いてくれるお手製のチーズケーキは絶品です。

中村 / 検品

満面の笑みかと思いきや、近づくと顔がこわばってる中村さん。検品においての正確さは素晴らしく、ミスできない海外出荷作業も兼任されていて、フル回転していただいています!

と、それぞれの職人に対する古家くんのコメントの通り、作り手や使ってくれる人、そのすべての人への尊敬と愛情が込められたのがマスターピースなのだと、ちょっと感動してしまった僕でした。

次回は、そんな『BASE OSAKA』で働く若き職人たちがデザインから手がけた新しいバッグシリーズを紹介します。

あー、こんな工場が自社であるなんて羨ましい。それが僕の素直な感想です。ズルいぞ!古家くん!

Text : Yuji Iwai

master-piece Director

Kouki Furuya

昨年、新しくブランドディレクターに就任。190cmほどの大きな身体からは想像できないロジカルで柔らかな語り口でブランドの魅力を語るマスターピースの看板選手。