THE STORieS

#007 reyouth

マスターピースのモノ語り

マスターピースのバッグには、ひとつひとつに様々なストーリーが宿ります。ただのバッグではない、物語が詰まったプロダクトがどのように生まれたのか。

スペックではないストーリーを、お届けする企画「THE STORieS」。


文 : 岩井祐二
1977年京都府生まれ。雑誌『カジカジ』編集長を経て、2017年に独立。大阪・中津に編集型ショップ「IMA:ZINE」を立ち上げる。現在も雑誌制作や各種クリエイティブに携わる編集者としても活動。

 

“機会”は人を大きくし、強くする。
若手の自主性がほとばしる力作がずらり。

“機会”は人間に最も必要なものの一つ。どれだけ才能に溢れていても、どれだけ努力を重ねていても、どれだけ成功が見込めていても、それを生かす場が無ければ何も生まれません。そしてその“機会”は、自分で作り出すこともできるのですが、大抵の場合はその周辺にいる人たち、特に上司や親方、監督やプロデューサーなど立場が上にある人たちが与えることから始まります。

それは歴史が物語っています。織田信長が木下藤吉郎を、仰木監督がイチローを、宮藤官九郎が阿部サダヲを、いかりや長介が志村けんを、それぞれがその才能を見つけ出し、信じて、任せる“機会”を与えたからこそ、そこで覚醒し、爆発的に成長することができたのです。

僕は「カジカジ」という雑誌で約12年間編集長を務めさせていただきました。編集長になれたのも、まだまだ小童だった僕に“機会”を与えてくれた先輩がいたからです。大学を卒業後、フラフラと京都の街で遊び呆けていた僕は25歳で憧れていた編集の仕事に就くことができました。最初はさして興味のない車の雑誌の編集者として一年半ほど働いたのち、東京に出てHIP HOPカルチャーを扱う本を作ることに。そこで一年半ほどガムシャラに仕事をしていたら、力不足でその本を休刊させてしまいました。消化不良な僕はそのまま退社して東京に残り、編集者として再就職しようか、なんて考えていたら、その先輩から一本の電話が。「大阪に帰って来い。お前にやらせてみたい仕事がある」と。はて、何の仕事やら? なんて思って大阪の本社に顔を出したら、会議室に役員がずらり。虚をつかれた僕に先輩から一言、「大阪戻ってきてカジカジの編集長やってみいひんか」。入社して3年目、まだ28歳だった僕に、いきなり編集長、という大役を任せるというのです。しかも、歴史あるカジカジの。憧れのカジカジの。いま考えても解せません。若すぎるし、経験も不足している、しかも東京で本を休刊させたばかりの人間に、いきなり編集長は…あまりにも無謀な賭けに出た会社に思わず「本気ですか?」と言ったことを覚えています。僕はその時に“機会”を与えられていなければ、いまのような仕事はしていなかっただろうし、いまこの原稿も書いていなかったと思います。それからは、人に“機会”を与えること、失敗する権利、成功するチャンスを用意することを常に頭に置いて歩んできたつもりです。それほどに先輩から与えられた“機会”は僕にとって大きなものになりました。

「head office やshop、BASE OSAKAで働く若手にもどんどん機会を設けたいと考えました。普段は、僕が考えた企画を商品化~発売まで尽力してくれるスタッフが、現場の中で企画から始めて物を作ればどんなことが起こるのか。その経験と可能性はブランドにとって確実に財産になると」。

今回紹介する“reyouth”は、前回この『STORieS』で紹介したマスターピースの心臓部にあたる工場『BASE OSAKA』で働く若手スタッフによるシリーズ。若手が作る、若手に開発させる、聞くだけだと簡単ですが、これには“機会”を与える側の大きな決断が必要です。先ほど記したのはブランドディレクターである古家くんの言葉。こういうことをサラッという人に限って、実際に企画を任せたり、チャンスを与えることができないことが多いのですが、古家くんはやっぱりひと味違いました。もちろんディレクターとしてクオリティラインは守っているのですが、どうやら丸っ切り任せているようで、その仕上がりにも満足げな笑顔を覗かせていたのです。

「僕たちバッグブランドだけではなく、ファッション業界全体として、製造過程で出る“生地残反”は大きな悩みです。それをどうにか活用した新しいプロジェクトができないか、と考えていたところ、自社工場で出る残資材をそのままその場所で新しいバッグに生まれ変わらせることができないか、と。であれば、若手デザイナーが工場で日々研鑽を磨く若手と一緒に作りあげていったら、面白いんじゃないかと考えたのが始まりです」

指示のもとでつくるものと、自ら考えて作るものでは大きな違いがあるのは間違いありません。自主性の中で生まれるクリエイティビティは、その人のオリジナルの力として血となり肉となり、経験となります。若手にとってはとんでもなく大きな“機会”です。

“reyouth”の“re”はリサイクルを表し、“youth”はそのまま若い人たちを表します。若い人たちの力で本来は廃棄されるしかなかった残資材を新しい形で再利用する。ブランドにとっても、環境にとっても、人にとっても素晴らしい取り組みだと思います。そして、もちろん、クオリティは間違いなし。マスターピースの他のコレクションと全く遜色なく、デザインも使い勝手も秀逸な仕上がり。僕らユーザーにとっても素晴らしい取り組みとなっているのです。
もしかしたら、この“reyouth”を作るメンバーから、マスターピースにとってのイチローや志村けんが誕生する可能性だって秘めているのです。

“機会”を与える側は、恐れず、大胆に、速やかに。
“機会”を与えられた側は、思い切って、楽しく、トライする。

皆がハッピーになるできごとは、きっとそんなマインドが生み出すものなんだろうなぁ、としみじみ考えるのでした。

Text : Yuji Iwai

master-piece Director

Kouki Furuya

昨年、新しくブランドディレクターに就任。190cmほどの大きな身体からは想像できないロジカルで柔らかな語り口でブランドの魅力を語るマスターピースの看板選手。