THE STORieS

#008 TASF × master-piece

マスターピースのバッグには、ひとつひとつに様々なストーリーが宿ります。ただのバッグではない、物語が詰まったプロダクトがどのように生まれたのか。

スペックではないストーリーを、お届けする企画「THE STORieS」。


文 : 岩井祐二
1977年京都府生まれ。雑誌『カジカジ』編集長を経て、2017年に独立。大阪・中津に編集型ショップ「IMA:ZINE」を立ち上げる。現在も雑誌制作や各種クリエイティブに携わる編集者としても活動。

カバンを見ていたら釣りに行きたくなった話。

子供の頃、親父との思い出といえば、地元の京都・宇治川で楽しんだ鯉釣り。団子みたいな餌を投げ込んで、ひたすら竿につけた鈴が鳴るのを待つだけだったけど、子供ながらに自然と対話しながら、鯉との遊びを楽しむ時間はかけがえのないものでした。夜の宇治川は子供には不気味だったけど、静寂の中で突然訪れる興奮は他にはない喜びで、鯉を釣り上げる親父はとてもカッコよく、たくましい大人に見えたものです。

そんな原体験があった僕に、再び釣りの機会が訪れたのは20歳ごろのこと。それまでの釣りとは全く違うゲームフィッシングとして、ブラックバス釣りが空前のブームとなっていた頃です。宇治川はもちろん、車で一時間あれば行ける琵琶湖に毎週のように通いました。バスフィッシングは僕にあった釣りの概念を大きく変えてくれたものでした。状況や環境、時間や天候、季節、すべてを読みながら、自分の持っている武器(ロッド、糸、ルアー)を駆使しながら、見えないブラックバスと一日中駆け引きをする。イライラもするし、落ち着け、冷静になれとか頭の中で言いながら、また熱くなってはブラックバスにそっぽを向かれたり。僕は多分他の人たちに比べれば釣りのセンスがなくて、そんなに釣れる方ではなかったけれど、当時は今ほど難しいものではなくて、もっと簡単に釣れていたから、成功体験もそれなりにあって。今思い出しても自分が狙った通りにブラックバスがヒットした時は、それこそ天にも昇るほどの興奮を覚えたものでした。

その後、社会人になり休みもまともにない10年間を過ごしたことですっかり釣りとは無縁の日々を送っていましたが、とあるブランドの展示会に訪れた時、久々に“ブラックバス”というワードを耳にして、嬉しさと懐かしさが込み上げ、ほんのちょっぴり興奮させられることに。

そのブランドとは、大阪が誇るエンターテイメントデュオが作り出す、ご存知<THEモンゴリアンチョップス>です。新世界を拠点に、本気のモノづくりで僕らをいつも楽しませてくれる彼らが数年前の展示会で発表していたのが<TASF>というレーベルでした。<TASF>とは“Tool Assist Super Fishing”の略。その名の通り、それぞれの人の釣りをサポートするアイテム(洋服やバッグ)をリリースしていたのですが、当時はブラックバスフィッシングは全くと言っていいほど人気がなくて、楽しむ人口も減る一方の趣味でした。なぜいまブラックバス? という素朴な僕の疑問は、予想通り、デザイナーの二人がとにかく釣りが好きだから、という明快な答えで解決されることに。安藤さんと山本さん。<THEモンゴリアンチョップス>を手がける彼らは、とにかく全てに対して本気。モノ作りはもちろん、それに至るアプローチや、それに付随する遊びまで。時にふざけることもあるけれど、ふざけることも本気でやっちゃうもんだから、面白いのと同時にいつもムネアツなムードを僕らに届けてくれるのです。この<TASF>もそのひとつで、彼らの気持ちがヒシヒシと伝わるものでした。それからも彼らの釣りに対する愛情を反映する形で<TASF>はラインナップされ、僕も展示会や店頭でちょくちょくと気にしながら見ていたものだったのです。

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とある昼下がり。我らがマスターピースの広報を担当する福井くんから僕に一本の電話が。「どうしても見ていただきたいものがあるので、今度の展示会にお越しいただけないでしょうか」。仕事はむちゃくちゃできるけど、抜けがなさそうに見えてちょっと天然、とにかく良い奴な福井くんの珍しく強まった語気に戸惑いながらも、喜び勇んでマスターピースの展示会へ。そこにはこの『STORieS』ではお馴染みのディレクター・古家くんの顔ももちろん。二人が我慢しきれない様子で紹介してくれたのが、今回ここで紹介するマスターピースと<TASF>で作り上げたコラボレーションラインでした。

「ディレクターになるずっと前から友達のスタイリストとともに<THEモンゴリアンチョップス>の展示会にはお邪魔していました。お二人にはとてもよくしていただいて、影響も受けていますし、尊敬もしています。色々と勉強させていただいている間柄です」と古家くん。謙遜している様子ではなく、その言葉からは本当に彼らのことをリスペクトしていることが伝わってきます。

「マスターピースのことはもちろん知っていましたし、モノ作りという面において、素晴らしいクオリティを持ったブランドだと認識していました。ただすごいイメージとして硬くて、僕らみたいな人間と関わることはないだろうと思っていたのも事実です(笑)。ですが、古家が展示会に来てくれて色々と話しているうちに、“あ、こんな人もおるんや”っていい意味で驚きでしたね。いい奴だし、面白いし、僕らのことも理解してくれてるし。でもまさかディレクターにまで出世するとは(笑)」と<THEモンゴリアンチョップス>の安藤さんと山本さん。

まず驚いたのは、<THEモンゴリアンチョップス>のコレクションの中のほんの一部だった<TASF>が、いつしかちゃんとしたブランドとなって、ここまでの表舞台に現れたこと。想像していなかったコラボレーションで、物を見る時は少しドキドキしたけど、実物はこちらも想像以上に素晴らしかった。

「最初はレーベル的なポジションだった<TASF>ですが、ここ数年は、僕らもかなり“釣り”に本気になっていたこともあり、いまではブランドとして形を成していると思います。少し突っ込んだことを言うと、<TASF>は“概念”だと思っているんです。釣りを楽しむ人のための道具であって、コミュニケーションツールであって。とにかくエンジョイして欲しいんですよね、バスフィッシングを。例えば、釣ったブラックバスを笑顔で持っている人が写ったインスタグラムのフィードに、ハッシュタグで“#TASF”って付くような。実際にそうしてくれている人たちもいて、それはもう理想の形なんです」(山本さん)

このコラボレーションは昨年の春ごろから進行してきたそうだけど、ちょうど古家くんがディレクターに就任した時期と同じで、ブランドとして新しいチャレンジをしたいと考えていた時に、<TASF>とのコラボレーションを行動に移した。

「<TASF>は展示会で拝見していましたし、その考え方とかコンセプトにもすごく共感が持てていて。僕は釣りをしませんが、実際に<TASF>の服も買って着てみれば、釣りをしない人でも楽しめることを肌で感じていました。いつかお二人と仕事をしてみたいと思っていたこともありますが、マスターピースの社内にも釣りが好きな人が多かったのも追い風になりましたね」とコラボレーションのきっかけを語ってくれた古家くん。

それに呼応するように、「<TASF>では以前からカバンも作っていたんです。でもやっぱり服屋が作るカバンっていろんなところに限界があって、細かいところまでは行き届かない。古家と知り合う前から勝手に、“いつかマスターピースみたいなところが作ってくれないかな”と想像していました」と安藤さん。

必然の出会いから、お互いの求めているものが合致して、自然と始まったコラボレーション。スタートとしては理想的。そうして出来上がったコレクションはまさに“Tool Assist Super Fishing”を体現する素晴らしいクオリティで、各方面で話題を呼ぶことに。

「特にブラックバスを象った“バスバッグ”の反響はすごかったですね」と福井くん。僕も展示会で見た時、最も印象的で、最も“モンゴリらしい”と度肝を抜かれたのが“バスバッグ”。こういうモノに本気で取り組むあたりがモンゴリだと思うし、それに完璧な形で応えているマスターピースもさすがだな、と感嘆したのです。

「最初はバックパックとかだけで予定していましたが、何かコラボレーションを象徴するものがあったらいいな、と。釣りをしている時以外でも、釣りを感じられるようなもの。そんな時に、バスフィッシングの本場、アメリカの大きなトーナメントの映像を見ていたんです。日本人も多く活躍しているのですが、アメリカではブラックバスを掬い上げる時に魚を傷つけるからという理由でネットが禁止されていて。伊藤巧プロが手で魚を持ち上げる姿を見て“完全にクラッチバッグやん”ってなったんです。だったら、ブラックバスの形をしたバッグを、カバン作りのプロであるマスターピースにお願いしようと。マスターピースには、そのノリをわかってくれる人がいるし。古家なら、それにモードな雰囲気も加えてくれるだろうと期待して(笑)」と山本さん。

「最初はサンプルを作ってくれた職人さんも“これで合ってるの?”って不思議がっていましたが、いまではブランドの皆がお気に入りのバッグのひとつになっています(笑)」と古家くんが言う通り、その出来栄えは見事で、一回目の発売分は即完したのだとか。あまりの人気に追加生産も決まったようで、コラボレーションの成功を象徴するアイテムとなった。また、その他のアイテムも充実していて、そこにはお互いのこだわりが十分に込められているようだ。

「何度もサンプルをフィールドテストで試したりしながら、最初からは大きく変わった部分もありますが、最終的にはとてもいい出来になった思います。ショルダー型のバックパックは、実際に背負って釣りをしてみたらわかると思いますが、本当にストレスが無くなります。釣りを楽しむ人たちにいい状態を作ってくれるんですよね」と安藤さんと山本さんも大絶賛の出来に。

その発売を記念して、彼らのホームグラウンドである淀川へ、みんなでフィールドテストへ行ったのですが、それもまた大成功の内容で(詳しくは福井くんのブログをぜひ)。

すべてがポジティブなオーラに包まれた<TASF>とマスターピースのコラボレーション。釣り人にとってはまさにマスターピースな一品になったことは間違いなさそうです。

僕も親父を誘って、久々に鯉釣りにでも行きたくなったし、地元の友達を誘って、琵琶湖へバスフィッシングにも行きたくなりました。

ん? そうか、この感情がまさに<TASF>。
あの二人にまたヤラレてるって気づいて、とても嬉しくなりました。
と同時に、釣りがもたらすあの興奮をもう一度、なんて欲求も湧いたりして…。

あー、釣りに行きたい。
釣れなくてもいいから、釣りに行きたい。

そう僕に思わせてくれたマスターピースにも感謝の気持ちでいっぱいです。

Text : Yuji Iwai

master-piece Director

Kouki Furuya

昨年、新しくブランドディレクターに就任。190cmほどの大きな身体からは想像できないロジカルで柔らかな語り口でブランドの魅力を語るマスターピースの看板選手。