THE STORieS

#005 age

マスターピースのモノ語り

マスターピースのバッグには、ひとつひとつに様々なストーリーが宿ります。ただのバッグではない、物語が詰まったプロダクトがどのように生まれたのか。

スペックではないストーリーを、お届けする企画「THE STORieS」。


文 : 岩井祐二
1977年京都府生まれ。雑誌『カジカジ』編集長を経て、2017年に独立。大阪・中津に編集型ショップ「IMA:ZINE」を立ち上げる。現在も雑誌制作や各種クリエイティブに携わる編集者としても活動。

 

共生することで良きものに。
新しく生まれ変わるマスターピース。

コロナ禍で半年も会えていなかった友人と久しぶりに酒を飲み交わす約束をした10月のある日。楽しみにしていた待ち合わせで、相手がすっかり約束を忘れ、待ちぼうけとなった僕は、落ち合う場所が書店の前だったということもあり、久々にゆっくりと本を吟味することに。そこは大阪でも随一の大型書店、手に入らないものはないほどの品揃えを誇る店で、雑誌や文庫、最新の小説はもちろん、啓発本や専門書もとんでもない量が並んでいます。こんな膨大な数の本の中から自分の琴線に触れる一冊とめぐり合うのは至難の業、やっぱり大型書店は苦手だ、人も多すぎる、なんて心の中でボヤいていたら、視界の端で何かに引っかかるようにとあるタイトルを僕の眼が捕えました。

「日本習合論」。
“外来のものと土着のものが共生するとき、私たちの創造性はもっとも発揮される。”

そう書かれた帯を見て、ブルっと小さく身震い。それは自分がいつも思ってきたことであると同時に、日本の文化を端的に表した素晴らしい一文に出合えたのだと良い気分になり、「君が僕との約束を忘れてくれたおかげで僕は素晴らしい本に出会えたよ」と、待ち合わせを忘れてくれた友人に心の中で感謝の意を述べました。著者は、文化や宗教、様々な視点から気づきを与えてくれる内田 樹先生。良本を出版する京都のミシマ社が仕掛けた、内田先生にとって久々となる書き下ろしの一冊です。ここでそのレビューをするつもりはありませんが、とても素晴らしい内容で、グッとくる金言も多数ありました。そのあたりは手にとって読んでいただくとして、やはり僕にはそのタイトルと帯の一文が心に響いたわけです。

“外来”と“土着”、そして“習合”。上の一文には極端な言葉が並びますが、これはいろんなものに当てはまります。“新しいもの”と“古いもの”もその一つ。“追加されるもの”と“いまあるもの”、硬く言い換えれば“伝統”と“革新”でしょうか。それら異なる性質のもの、異なる出発点を持つ者たちが、共生すること。そしてそれをより良きものに“習合”させていくこと。

これは日本文化が最も得意とすることで、我々日本人のDNAにも深く刻まれていることだと、僕は思います。外からやってくる文化やあらゆるものを拒否するのではなく、一度取り入れて噛み締め、咀嚼し、自分たちの都合やその時の状況、時代性に合わせて編集し、形を整え、いつのまにか自分たちのものにする。料理や音楽、映画など、日本の文化はそうやって、様々なファクターを飲み込んで、独自のカルチャーへと発展を遂げてきました。中でもファッションはその最たる例。パンク、ヒッピー、テクノ、アメカジ、トラッド、モード、世界中から生まれた多様なスタイルやカルチャーを丸ごと飲み込みながら、編集をし直しながら、日本のスタイルを確立してきたと言えます。内田先生が伝えたかったこととはズレているかもしれませんが、世界の文化を自国化する、という点において日本より優れた国を僕は知りません。

ではなぜ日本人はそれができるのか。様々な意見があると思いますが、僕はそこに“敬意”があるからだと思っています。何か新しいことを始めようとした時、我がままに自分のスタイルをただただ押し通すのではなく、先人が築いてきたものや、元にある文化を敬い、その気持ちを胸に抱え“より良きもの”を目指す。全員がそうではないにせよ、そういった精神が我々日本人には備わっているのだと思います。それは一朝一夕で手に入れたものではなく、これまた偉大なる先人たちが、海に囲まれた小さな島国で、世界と共存共栄していくために会得した処世術を僕たちに見せてきてくれたことに起因しているのではないでしょうか。そして、“より良きもの”にするために、自らが積んできた経験や磨いてきた感覚をそこに注ぎ込み、習合させる。さすれば、それは“外来”と“土着”がひとつになり、今までになかった新しいものに生まれ変わると思うのです。

創業は1994年。我らがマスターピースにも伝統が息づく長い歴史があります。ストリートがファッションを導き、世界が近くなったあの頃から26年。ファッションバッグのパイオニアとして、数々のエポックメイクを起こしてきたブランドです。

そのブランドディレクターに就任した古家くんは、創業したのちに入社している、極端に言えば“外来”。古くから培われてきたマスターピースの伝統は“土着”のものとして捉えることができます。そんな古家くんが、一体どのようにそれを“習合”させるのか。

それに対しての一つの答えが、この『age』にあると思います。彼がブランドディレクターとして、最初に手がけた新作がこのシリーズで、そこには様々な想いが込められています。

まず大きく変わったのはブランドロゴとタグ。今までプレートや布タグでブランド名を主張したものが多く、それが目を引き、多くのユーザーから好まれてきました。ですが、ブランドがスタートして26年、その認知度は高まったこともあり、ブランドロゴはよりミニマルに、タグによるブランドネームの視認性も下げ、デザインの主張性を強めることで、新しいイメージを導き出す方向性へと舵を切ったのです。

「自分たちの周りにも好んで持っていただけるようなバッグを目指して、よりリアルなデザインを心がけています。最も大きく変わったのはロゴとタグですが、従来の主張するロゴではなく、クオリティ重視、デザイン重視で打ち出していきたいと考えた末、このような形になりました。その一発目のシリーズがこの『age』です。新しく生まれ変わるマスターピースを体現したモデルになりました」と古家くんが語る通り、全体の仕上がりはミニマルでクリーン。ロゴやタグが変わるだけでこんなにも印象が変わるものかと正直驚いた。

「ロゴを添えるようにしたことで、トータルバッグとしての提案がしやすくなったと思います。ファッションバッグブランドとして歩んできたマスターピースのスタイルをより強くし、あらゆるファッションにもフィットしやすいイメージにできればと。配色においても、マスターピースらしいマルチカラーのデザインを踏襲したものから、ブラックの単色までを揃えています。ただし、今までよりもよりデザインが際立つように、ファスナーに気を配っていたり、新しい生地の組み合わせを試してみたり、様々な要素が詰まっています」

誰かが築き上げてきたものを新しい時代へとフィットさせる時、最も大切なことは何よりもまず“敬意”を抱くこと。その上で“より良きもの”を目指す。前述した岩井独自解釈の“習合”文化が、この古家くんの言葉からもひしひしと伝わってきます。長く続いてきたブランドを、より高みへと導く作業はとても難しいものです。世界中のメゾンでも同じようなことが繰り返されていますが、成功したのは数えるほどしかありません。敬意を抱きながらも革新に挑むと言うのは骨の折れる作業ですが、古家くんのこの言葉を聞いた時、その透明感のある志に、僕はすっかり安心していました。

「メイド イン ジャパンではなく、僕らは“メイド イン マスターピース”を打ち出したい。そのために遠くから見ても“マスターピース”っぽさのあるデザインとクオリティを続けていきたいですね」

新しい物事の始まりはすべて仮説から始まりますが、この古家くんの想いが仮説となり、“ぽさ”を体現するようになるまで、そう多くの時間は必要ないと僕は思います。この『age』を見ていれば、そんな気がしてきました。

Text : Yuji Iwai

master-piece Director

Kouki Furuya

昨年、新しくブランドディレクターに就任。190cmほどの大きな身体からは想像できないロジカルで柔らかな語り口でブランドの魅力を語るマスターピースの看板選手。